憲法改正

緊急事態条項で政令?任期延長?

ていうか、自民党が検討している緊急事態条項(2018年3月25日時点)の「政令」ってなんですか?
政令は、簡単にいうと、国会が作る「法律」というルールよりも下のルールで、内閣が作るものです。
もともとの憲法第73条(内閣の職務)の6号に規定されているとおり、「法律の規定を実施するため」のものです。
え!?そうすると、もともと、内閣は政令を作れるってことなんですよね?
じゃあ、何故わざわざ第73条の2を加えて、「大地震その他の異常かつ大規模な災害」がある時に政令を作れるようにするんですか?
スルドイですね~。
はい、そうなんです。内閣はもともと政令を作れるんです。
ただ、政令は、あくまでも法律より下のルールですので、例えば、市民に何かを義務づけたり、何かの権利を制限したりするようなルールは、法律でないとダメ、とされているんです(政令でそのようなことをするには法律による「委任」が必要)。
え…そうすると、わざわざ緊急事態条項で政令を作れるようにしたのは…?
自民党による第73条の2案では、
国会で法律を作る暇がないときに、政令を作れるとしていますね。
これはつまり、「法律による『委任』」の暇がないときに、政令を作れるということです。
ですので、市民に何かを義務づけたり、何かの権利を制限したりするような政令も作り放題ということですね。
【条文案】2018年3月25日時点
 第73条の2(※内閣の事務を定める第73条の次に追加)
(第1項)大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる。
(第2項)内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない。
なるほど~。パズルみたいでおもしろいですね!
でも、自民党の緊急事態条項の案って、国会の多数を握った人たちがそうと決めたら、それが「異常かつ大規模な災害」になって、それで政令を作れるっていうお話でしたよね。
そうすると、わけわかんないことを義務づけたり、大切な権利を制限したりする政令が作り放題になるんじゃないですか?
そのとおり、この緊急事態条項案というものには、おっしゃるとおりの危険があります。
あ、でも、2項で、「速やかに国会の承認を求めなければならない」って書いてますね!そうすると、やっぱり、一応、国会が関与するということになるんじゃ?
「『●日以内』に承認を求めろ」というものじゃないので、長く放置される危険があります。さらに、「承認を求めろ」と書いてあるだけですので、承認がなくても緊急事態条項で作った政令が無効にならないかもしれません(★憲法第54条3項と比べてみよう★)。
【憲法54条2項、3項】
②衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
③前項但書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ。
日本は、国会の多数派が内閣を作るので(=内閣と国会の多数派は一体)、結局強行採決されたりするとはいえ、国会で野党が質問をすることでおかしいことが炙り出されることがあるのですが、この緊急事態条項の案では、それすらなくなるかもしれません。
え…
そういえば「●日」とかで言えば、国会議員の任期延長も、どれくらいの間延長できるとかは書いてなかったような…
【条文案】2018年3月25日時点
第64条の2(※国会の章の末尾に特例規定として追加)
 大地震その他の異常かつ大規模な災害により、衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の適正な実施が困難であると認めるときは、国会は、法律で定めるところにより、各議院の出席議員の3分の2以上の多数で、その任期の特例を定めることができる。
よく見てますね!そうなんです。延長し放題なんです。投票ができないときの投票延期は、公職選挙法で既に規定してるんですがね~、困ったものです。
え~!!
自民党の緊急事態条項案ですと、国会の多数派がそうと決めたら、それが「異常かつ大規模な災害」になって、内閣が国会の議論(野党の追及)もなく政令を作り放題、しかも自分たちの任期を延長し放題にできる、というものです。
難しい言葉で言わせてもらうと、政府への権限集中・私権制限と、選挙の延期による政権独裁を引き起こす危険がある、ということです。