大阪都構想ってなに

4 「都構想」の考え方へのその他の疑問

設置された「特別区」相互や府との間で「二重行政」は生じないのですか。
 都構想の下でも,各特別区の区長は選挙で選ばれますから,A特別区長が必要だと考える住民サービスが,B特別区長から見れば「自分のところにも同じようなサービスがあるから二重行政だ」と考える場合もあり得ます。都構想賛成派は,その場合,相互の間で調整すればよい,としています。
 ただ,そうであるなら,そもそも大阪府と大阪市との間で「二重行政」と見えるサービスも大阪府と大阪市とで調整すれば済む話しではないでしょうか。なぜ「特別区」相互で調整が可能なのに,大阪府と大阪市相互では調整ができないと決めつけるのでしょうか。賛成派はこの点でも論理矛盾であるように見えます。
現在24ある「中央区」などの行政区長に権限を与えれば,特別区制度にしなくてものよいのではないですか。
 今ある行政区長は市長が任命する職員です。これに対し,都構想賛成派は「都構想で設けられる特別区の区長は,選挙で選ばれ予算編成や条例提案の権限を持ち身近な行政を担う区政の全般にわたって責任を持って判断することができる」と説明しています。
 ただ,本当にそれほど強力な権限を持つのであれば,特別区の区長と知事との間で「二重行政」が生じる可能性が出てきます。区長も選挙で選ばれる以上,必ずしも知事と同じ政党に所属するとは限りませんし,当然意見の対立は生じるでしょう。都構想に賛成する方は,「そこはきちんと役割分担をする」と反論するのでしょうが,そのような役割分担の調整が可能であるなら,現在ある大阪府と大阪市との間でも調整は可能なはずです。
 特別区と大阪府の調整は可能であるのに,大阪市と大阪府の調整がなぜできないのか,明確な根拠は示されていません。
大阪府に移管された大阪市の財源は他の市町村のために使われたり,大阪府の赤字補てんに使われるのではありませんか。
 都構想賛成派は,「それらの財源は,現在大阪市が担っている広域的な役割を果たすための事業に充当するものであり,大阪府・特別区協議会でその状況を明らかにする」とします。
 ただ,都構想賛成派が認めるように,都構想の下では,大阪府知事がたった1人の司令塔になるのです。従って,最終的に,何が「広域的な役割を果たすための事業」なのかを決めるのは府知事の権限になります。つまり,府知事が大阪府の赤字補てんが「広域的な役割を果たすため」に必要と考えれば可能となります。これを阻止する仕組みはないのですから,大阪府の赤字補てんに使われる可能性は大いにあると感がられます。
現在,知事も市長も維新の会から出ているので方針が一致しているのだから,あえて都構想にしなくとも同じことではないですか。
 確かに,2020年5月現在,吉村知事と松井市長はいずれも維新の会の出身ですから,その意味で方針が同じであり,都構想と同様の効果が出ているかもしれません。
 この点について,都構想賛成派は,このような,知事と市長の人的関係によらず「二重行政」を将来にわたって制度的に解消できるようにするために導入すべきだとします。
 しかし,逆に言えば,今なら,市民が,「広域的なことを決める府知事はA政党のこの人がいいが,市長はB政党のこの人がいい」と思えば,別々に選ぶことが出来ますが,大阪市が廃止されると,そのような選択肢が失われることになります。
 現在,府政と市政の方針を一致させたいと思えば,市民が選挙でその意思を表明すればよいし,一致させるべきではないと考えれば,その意思を表明することができます。そのうえで,知事と市長がそれぞれの選挙結果を踏まえてしっかりと話し合えば,「二重行政」と主張するような事態は解消できるのではないでしょうか。都構想はこのような選択肢を奪うもので,多様な民意を反映すべき民主主義に反するものと言えるのではないでしょうか。
 現に吉村知事自身,都構想が実現していない状況の中で,新型コロナウイルス対策での大阪府と大阪市の連携が出来たことを,5月26日の府議会で述べています。吉村知事は,この連携を引き合いに「都構想の実現が必要」と訴えたのですが,むしろ,あえて都構想という制度がなくとも必要な場面においては連携が可能であることをいみじくも認めたのではないでしょうか。
都構想になっても住民サービスの維持は選挙で選ばれる区長によって実現できるのではないですか。
 大阪市解体後の特別区の区長は選挙によって選ばれることになります。都構想賛成派は,「選挙で選ばれる区長と区議会が住民の皆さんの意見を聴きながら,地域の実情に応じて,身近な行政サービスの提供に取り組みます」とします。しかし,現在の大阪市と比べて権限も財源もずっと制約される区長が実現できる行政サービスは当然のことながら限られます。
 いくら意見を聴いても,それを実現する力がなければ意味はありません。従って,悪くなることはあってもよくなることはないと考えるべきです。
これまでりんくうゲートタワービル,WTC,グランキューブ,インテックス大阪,など多くの事業が「無駄遣い」と主張する人たちがいますが,都構想が実現すればこのような「無駄遣い」はなくなるのですか。
 例えば,維新の会などは,府立中央図書館と市立図書館が二重行政だと主張しますが,これらは長い歴史の中で,市民の声を聞きながらその要求に基づいて設けられたものであり,無駄な「二重行政」とは言えないのではないでしょうか。また,百歩譲って,いずれかが「無駄」であるなら,大阪市民が選挙で選んだ市長と府知事が連携して検討すればよいことです。府知事が「無駄」と判断しても,市長が独自の市民サービスとして必要である,と考えることは当然にあり得ます。
 また,他の事業にしても,そもそも個々の事業の見通しの評価であり,「二重行政」のせいにするのは誤りです。大阪府と大阪市が連携してその見通しを十分に検討すれば避けられるものです。
 むしろ,大阪府と大阪市が複数の観点から検討したほうが,たった一人の「司令官」が独善的に決めるより,より慎重な判断が可能となるのではないでしょうか。
 いずれにしても,これら事業の破綻は都構想が必要であることの根拠とはならないものです。