大阪都構想ってなに

3 「都構想」の下で住民サービスはどうなりますか。

都構想が実現すればたくさんのお金が使えるようになるのですか。
 都構想賛成派は,「都構想が実現すればたくさんのお金が使えるようになる」と主張します。しかし,このような主張には重大な疑問があります。
 都構想賛成派は,例えば10年間で「1・1兆円の財政効率化効果がある」などと主張します。
 ただ,これは少し特別な理屈に基づいています。
 普通に考えれば,「同じことをするなら規模が大きいほうが安く済む」でしょう。一度にたくさん買ったほうが一つあたりの単価が安くなる,というのは皆さんも日常生活で経験することだと思います。
 ところが,財政効果があると主張する根拠は,「確かに住民1人あたりにかかるお金は自治体の人口が大きくなればなるほど減るが、ある一定の規模を超えるとかえって支出が増えてしまう」とし,一番少なくなるのが,大阪市を4つに分けた時だ,というのです。
 この主張は,具体的な住民サービス毎に細かく検討したものではありません。これに対しては,大阪市を分割しても,すでにある都市関連施設は残るから歳出減にはつながらない,分かれた特別区の歳出が減るとしても府の歳出がその分増えるだけだという有力な反論があり,これに対する明確な反論もなされていません。
このように,都構想実現による財政効果にはっきりした見解はないのです。
都構想が実現すれば大阪市の権限や財源はどうなりますか。
 前述のとおり,大阪市は廃止されたうえで,法律上「市」と比較して財源や権限がずっと制限された4つの「特別区」に分けられたうえで,現在の大阪市が持っている権限や財源の多くは大阪府に吸い上げられることになります。
 これについて「大阪市民は大阪府民でもあり,広域行政サービスの実施主体が大阪市から大阪都に移ったとしても実施主体が異なるだけで同様のサービスを受けられる限り市民に不利益はない」という意見もあります。
 確かに,大阪市が廃止になってもこれまでと「同様のサービス」が保証されるのであれば住民に不利益はないかもしれません。しかし,都構想を実施する法律のどこを見ても「同様のサービスが保証される」とは書かれていません。むしろ,現在は,政令指定都市として大阪府の他の市と比較しても多くの財源を持つ大阪市が解体されて,その権限・財源が大阪府に移るのですから,常識的に考えれば,サービスが低下するのは当然ではないでしょうか。
 「同様の住民サービスが受けられる」とする主張に合理的な根拠は見当たりません。
「二重行政」と住民サービスの関係はどうなりますか
 「行政」とは様々な住民サービスを提供することです。そして,都構想は,大阪府・大阪市の行政の中には,無駄な「二重行政」があるというのですから,現在の住民サービスを全く切り捨てないまま,「二重行政」を解消する,というのは矛盾しています。
 ただ,都構想実現前にこの矛盾点を明らかにすると反対されてしまうことから,「住民サービスは低下しない」と強弁しているに過ぎません。
都構想で現在の住民サービスはどうなりますか。
 「住民サービス」には数多くのものがありますが,例えば,教育の問題を扱う教育委員会,あるいは虐待などの問題を取り扱う児童相談所などを例に考えたいと思います。
大阪市は,いじめ,体罰,児童虐待などが全国ワーストです。このため,これらの問題には積極的に対応しなければなりませんが,十分なサポートが出来ていないと言われています。
 そこで,都構想賛成派は,都構想にすれば4つの区が出来て,各特別区に教育委員会や児童相談所のような組織が出来るのだから,現状よりも対応が強化されると主張します。
 ただ,単に組織が増えれば対応が強化されるとは言えません。仮に,4つの組織が出来ても,一つの組織に10人しか担当者がいないのと,一つの組織でも100人の担当者がいるのとでは,明らかに後者のほうがサービスが強化されるのではないでしょうか。
 例えば,児童虐待についても,「大阪市に児童相談所を一つしかおいてはいけない」などという決まりはありません。現に,都構想が実現していない現在においても,大阪市内には二つの児童相談所があり,さらにあと2カ所設置される予定です。
https://www.city.osaka.lg.jp/kodomo/page/0000484815.html
 要は,単に組織の数ではなく,その問題を重要と考えて,そこにどれだけの予算や人的資源を投入するかの問題であり,都構想の賛否とは関係がありません。しかも,大阪市が独自の財源と権限を持っていれば,これらの問題にも十分に予算や人的資源を投入できますが,大阪府に吸い上げられてしまい,府知事が「府下全体では大きな問題ではない」と判断してしまえば,いくら特別区の区長が問題であると考えても十分な対応が出来なくなるのではないでしょうか。
各特別区で税収に差が生まれますか。そうだとすると,住民サービスに格差が生じますか。
 現在ある大阪市が4つに分けられますから,それぞれの特別区の税収は大きく減少します。さらに,特別区間には,それぞれの地域にある企業等の差があることから,税収に差が生まれます。この点について,賛成派からは「財政調整制度により、財源の均衡化を図る」という説明もなされていますが,結局のところ特別区間において調整するしかありません。それがうまくいかなければ現在大阪市内で画一的に行われている住民サービスに,都構想成立後には格差が生じます。格差が生じないようにする制度的な仕組みもありません。
 そもそも,特別区間での調整がうまくいくなら,大阪府と大阪市においても同じように調整をすればよいのであり,特別区間の調整はうまくいくが,府市の調整はできない,というのは詭弁です。
現在大阪市が独自に行っている敬老パスや,市民病院,スポーツセンター・プールなどは都構想が実現するとどうなりますか。
 都構想が実現すると大阪市が解体され,独自の財源と権限を失い,大阪府に吸い上げられます。これら大阪市独自のサービスは,長い歴史の中で独自に育んできた住民サービスですが,大阪府の観点からは,限られた予算の中,このような大阪市独自のサービスを継続する必要性は低いと考えられるでしょうから,このような大阪市独自の住民サービスの低下は必至です(財源の問題からして,大阪市が独自に設けている住民サービスを大阪府下の全市町村に広げることはあり得ません)。
 実際にも都構想を目指す維新の会は,敬老パス有料化や,住吉市民病院廃止,スポーツセンター・プールの統廃合を主張しています。
 百歩譲って,仮に住民サービスの統廃合が「改革のために必要」であるとしても,個々の制度毎に市民の声を十分に聞いて検討すればよいことであり,都構想実現の有無とは全く関係がありません。
現在,大阪市全体で受けられる住民サービスは,都構想が実現すれば特別区単位となり,特別区をまたいでのやり取りが煩雑になるのではないですか。
 都構想賛成派は,「特別区のエリアを超えて調整が必要なものについては特別区間で十分連携してやっていく」としますが,調整が必要なことについては否定していません。
 逆に言えば,住民サービスが特別区間で連携できるのであれば,都構想の根拠となる,府市の二重行政も,府と市で「十分連携してやって」いけば改善できるとも言え,論理が矛盾しているのではないでしょうか。