大阪市廃止による特別区の設置に関する住民投票の範囲を、大阪市民ではなく大阪府民にまで広げようとする副首都法案の撤回を求める意見書
= 副首都法案は、その本則では大都市法による特別区の設置は必要としていないにもかかわらず、その附則において、大阪市の廃止による特別区の設置に関する住民投票の範囲を大阪市民ではなく大阪府民まで広げる特例を定めようとしている。このような「特例の附則」は、大阪市民の自治権を根本から侵害するものであり、特別区設置に関する大都市法の立法趣旨(住民自治)に著しく反するとともに、憲法92条の「地方自治の本旨」等からも決して許されない違憲で無効なものである。このような「特例の附則」を持つ副首都法案は、速やかに撤回されるべきである。
2026年6月15日
自由法曹団大阪支部
第1 副首都法案における特別区設置に関する住民投票の特例の附則」とその問題点
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自由民主党および日本維新の会は、副首都に関連する法律案(正式名称:「国家社会機能継続性確保施策及び副首都の整備に係る施策の推進に関する法律案」。以下「副首都法案」という。)を作成し、今国会での成立を目指し、党内での検討を開始している。
副首都法案は、「大規模災害に備えて、副首都の整備に係る施策等に関し基本理念等を定めること」を目的とする法律案である(同法案1条)。副首都の指定は、道府県からの申出にもとづいて内閣総理大臣が指定すると定めている(同法案18条)。
日本維新の会は、当初、副首都の指定をうける要件として大都市法(「大都市地域における特別区の設置に関する法律」)による特別区の設置を必要とすることを求めていたが、「これでは大阪決め打ちだ」として維新の本拠地である大阪府のみを副首都とするものであり受け入れられないという自由民主党の「反発」をうけ、副首都の指定をうけるために、特別区の設置は要件とはされないことになったことが報じられている(2025年12月21日時事通信他)。
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このたび条文案が明らかにされた副首都法案では、上記経過に基づき、法律案の本則では大都市法による特別区の設置については何も規定されず、特別区の設置は副首都の指定をうけるための必要不可欠な要件とはしていない。しかし、その法律案の附則において、以下2つの「特例」を定めようとしている。
①「特別区包括副首都の名称変更の特例」という附則
この特例の附則(以下「特例の附則」という。)によって、特別区を含む道府県の副首都については、副首都である道府県民の住民投票の過半数の賛成で、道府県を「都とする名称変更」ができるとしている(同法案附則7条による大都市法11条の新設)。
②「特別区の設置と一体的に名称変更をする場合の特別区設置手続の特例」という附則
この「特例の附則」によって、「特別区の設置」と同時に名称変更をする場合には、大都市法が「関係市町村」の住民投票の賛成を必要としているにもかかわらず、これを「関係道府県」の住民投票の賛成で「特別区の設置」ができるとしている(同法案附則7条による大都市法12条の新設)。
この「特例の附則」を大阪に適用すると、大阪市の廃止による特別区の設置は、
・現行の大都市法では、「大阪市民」の住民投票の賛成が必要であるのに、
・特例の附則では、「大阪府民」の住民投票の賛成で決める、
ということになる。
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このような「特例の附則」が付された副首都法案は、
①大都市法が指定都市の廃止による特別区の設置については、指定都市(大阪市)の市民による住民投票による過半数の賛成が不可欠であるとした同法の立法趣旨(住民自治)に著しく反し、
②憲法92条の「地方自治の本旨」等を根本から覆す違憲で無効なものといわざるを得ない。よって、このような法律案は、速やかに撤回されるべきである。
以下その理由を述べる。
※以下では、適宜、本件「特例の附則」が大阪に適用された場合を念頭に、説明・付記することとする。
第2 大都市法が不可欠の要件とした当該市民(大阪市民)の住民投票を別の自治体(大阪府)の住民投票とすることは、同法の立法趣旨(住民自治)に著しく反すること
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大都市法は、人口200万人以上の指定都市(大阪市)の廃止による特別区の設置については、その指定都市(大阪市)の市民による住民投票で過半数賛成があることを不可欠の要件としている(同法7条、8条)。
これは当該指定都市(大阪市)の廃止による特別区の設置は、当該市民の生活・将来に重要な影響を与えることからして、大都市法においては不可欠な要件とされている。
大都市法の制定当時の国会質疑では、廃止となる指定都市の市民による住民投票を必要要件とした立法趣旨について、以下の答弁がなされている。
「住民投票につきましては、関係市町村が廃止されて特別区が設置されることによって、関係市町村の住民には住民サービスの提供のあり方というのが大きな影響を受けるわけですね。特に指定都市が今回廃止になるという、大阪市のような場合、そういう場合については権限や税財源の面でいわば格下げとも言える事態が生じて、通常の市町村合併以上に住民の生活等に大きな影響があると考えられます。ですから、本当にそういう指定都市を廃止して特別区という形にしていいのかということについて住民の意思を尊重する、そういうことも大事であろうということで、住民投票を必要とさせていただきました。」
(第180回国会の2012年8月7日の衆議院総務委員会における大都市法の共同提案者である佐藤茂樹議員の答弁)
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2015年と2020年のいわゆる「大阪都構想」についての2回の大阪市民による住民投票においても、
①政令指定都市である大阪市が廃止されることにより、大阪市の資産・財源・権限が奪われて大阪府に「吸い上げられる」こと(大阪市の財産の30,7%=3兆5,241億円が大阪府に移されること:2020年の特別区設置協定書案及び同資料より)、
②新たに設置される特別区は、権限が政令指定都市よりも小さくなるだけではなく、一般の市町村が有する固定資産税・都市計画税などの税収権限が大阪府に移され、大阪市廃止後の特別区に配分される都市計画税等の配分割合が約53%に減らされること(同上資料)などから、現状の大阪市民に対する行政サービスが将来維持できるかどうかについての大きな疑問が市民に伝わり、大阪市の廃止は2回の住民投票において否決された経緯がある。
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ところが、副首都法案の上記の「特例の附則」では、大都市法の不可欠の要件である「廃止される当該市民による住民投票」で決めるのではなく、廃止される自治体(大阪市)とは別の自治体(大阪府)の住民による住民投票で、当該自治体(大阪市)の廃止が決められることになる。これは大都市法の立法趣旨(住民自治)に著しく反するものであり、認められるべきではない。また、この「廃止される当該市民による住民投票」を不可欠の要件とする大都市法の規定は、単に法律上の要請だけではなく、後述するように憲法92条の地方自治の本旨に基づく憲法上の要請に基づくものであり、別の法律で奪うことができない「憲法上の権利」でもある。
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さらに、大阪市の廃止による特別区の設置は、上記2の①記載のとおり、大阪市の資産・財源、権限が、大阪府に「吸い上げられる」という大きな問題があるところ、資産等を「奪われる側」の大阪市民の利益と、これを「受け取る側」の大阪市民以外の大阪府民の利益とは相反する関係(「利益相反の関係」)にある。この点からも、大阪市を廃止するかどうかを自分たちの住民投票で決める権限を大阪市民から奪い、大阪市の廃止によって利益を得る関係にある他の大阪府民を含めた住民投票で決めることには、公正性を著しく欠くものであり、認められるべきではない(ちなみに、2026年3月時点の選挙人名簿登録者数は大阪市が約226万人、大阪府が約726万人=大阪市以外大阪府は差し引き約500万)。この問題は、大阪市以外の大阪府下の自治体の市民としても、逆の立場で、自らの自治体の廃止が他の府民の住民投票で決められて良いのかという問題として考えれば、その理不尽は容易に理解できるものと考える。
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仮に、このような「特例の附則」が付されたまま副首都法案が成立すると、大阪のみならず全国の道府県でも、所定の要件を満たせば、指定都市の廃止が、当該市民の住民投票ではなく道府県の住民投票で決められることを許す、ということになる。日本維新の会の政治的な目的を優先して、このような歪(いびつ)な「特例の附則」を付したままの副首都法の成立は許されない。
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そもそも、副首都法案は、上記のとおり、大規模災害に備えて、副首都の整備に係る施策等に関し基本理念等を定めることを目的とする法律案である。この立法趣旨からしても、特別区の設置は必要不可欠な要件ではない。
そして、
①副首都に指定される道府県(大阪府)が「都に名称を変更すること」の問題と、
②「道府県内の指定都市(大阪市)を廃止して特別区にすること」は、
法的には全く別の問題である。この2つの事項を、敢えて、1つの住民投票で決めなければならないという論理的必然性は全くない。
①の「大阪府を大阪都に名称を変更すること」については、大阪府民がこれを求めるのであれば大阪府民の住民投票で決めれば良く、それとは別の問題である②の「大阪市を廃止して特別区にすること」は、現行の大都市法のとおり、(仮に大阪市民が求めるのであれば)大阪市民の住民投票で決めれば良いのである(既に過去2回の住民投票によって大阪市民の意思は確認されている)。
そうであるにもかかわらず、大都市法とは別の法律である副首都法案という法律の「特例の附則」という形式を利用し、①と②を無理にひとつの住民投票で決めなければならないとすることは、論理必然性がないばかりか、大都市法の立法趣旨(住民自治)を著しく侵害するものであり、法律案としても正当性を著しく欠くものである。
第3 憲法違反による違憲で無効な法律案であること
1 憲法92条の「地方自治の本旨」を根底から侵害する違憲の法律案であること
日本国憲法第92条は、地方自治の本旨に基づき、住民の意思による自治を保障している。自治体の存立に関わる重大な決定、とりわけ市町村を廃止して特別区を設置するような決定は、当該自治体(大阪市)の住民の判断に基づいて行われるべきものである。
ところが、上記のように法律案の「特例の附則」によって、当該自治体(大阪市)の廃止を、それとは異なる広域自治体(大阪府)の住民による投票でこれを決定しようとする立法は、当該自治体住民の自治権を奪うものであり、憲法92条が保障する地方自治の本旨に真っ向から反する違憲の法律案
である。
2 憲法95条が定める住民投票を経ないで成立させること自体の違憲性
憲法第95条は、「一の地方公共団体のみに適用される特別法」は、「その地方公共団体の住民の投票」による過半数の同意を必須要件としている。これは、地域住民の自治権を尊重するため憲法が保障したものである。これを都道府県の名称変更についてみれば、地方自治法3条2項により変更する都道府県名を明示した特別の法律が必要であり、それは変更する都道府県にのみ適用される法律であるので、憲法95条の住民投票が必要である。
そもそも、副首都法案の上記「特例の附則」は、形式上は「全国の道府県を対象とする一般法」という法形式をとっているが、上記第1の1で記載したように自民党から「これでは大阪決め打ちだ」との反対意見がでたように、事実上特定の自治体(大阪市)の廃止を「特例の附則」で強行しようとするものである。これは憲法95条が担保しようとした「地域住民による決定権」を奪う潜脱行為にほかならない。附則も法律であり、このような法律の制定を、憲法95条が定める住民投票を経ないで今国会のみで成立させようとすること自体が、憲法違反であり、許されない。
第4 結論
以上述べた通り、今回の副首都法案は、その本則では大都市法による特別区の設置は必要不可欠な要件とはしていないにもかかわらず、その「特例の附則」によって、大阪市の廃止による特別区の設置に関する住民投票の範囲を、大阪市民ではなく大阪府民まで広げようとするものである。このような
「特例の附則」は、大阪市民の自治権を根本から侵害するものであり、特別区設置に関する大都市法の立法趣旨(住民自治)に著しく反するとともに、憲法92条の「地方自治の本旨」や憲法95条からも決して許されない違憲で無効な法律案と言わざるをえない。
このような「特例の附則」を定めようとする副首都法案の国会上程は許されず、同法案は速やかに撤回されるべきである。
以上


